〓 守り、守られ、手を取り合って 〓



ドルーア軍と一戦交え、なんとかその戦いに勝利し、その事後処理に追われていたマルスの下にカインが慌てた様子で駆けて来たのは、戦いが終わって二時間ほど経った頃だった。
「マルス様!!」
「カイン?」
マルスと、その補佐をしていたアベルは顔を見合わせ疑問符を浮かべる。
傍までやってきたカインは何度か肩で大きく深呼吸し息を整えようとする。だが余程の大事なのか、呼吸が落ち着く前に話し始めた。
「マルス様、さきほど後方で怪我人の治療をしていたレナ殿からの伝言を持って、ジュリアンが来たのですが……」
「ジュリアンが?」
「はい。実はシーダ様が……、レナ殿たちの護衛にあたっていたシーダ様が、先の戦いの最中お怪我をされたと……」
「何!?」
カインの言葉に驚くマルス。王子の背後にいたアベルが厳しい表情で相棒に問うた。
「どういうことだ? 後方部隊が襲われた事も、怪我人が出た事も報告はなかったぞ。戦いが終わって二時間も経つのに、何故今なんだ!」
「ジュリアンにも詳しい事は分からないらしい。怪我は大した事はないが、レナ殿が、マルス様の手が空いたら来て頂きたいと――」
「アベル」
マルスは家臣を見やった。この場を離れても大丈夫だろうかと視線で問う。
「問題ありません。あとは私とジェイガン様でなんとかなるでしょう。マルス様はシーダ様のもとへ」
「すまない、あとを頼む」
「はい」
アベルの返事を確認すると、マルスは近くに繋いでいた愛馬に跨り、カインに続いて馬首を後方部隊のいる方角へと向けた。



「シーダ!」
「マルス様?」
天幕に飛び込むように入ってきたマルスに、シーダは驚き目を見開いた。
簡単に作られたベッドの端に腰掛けて本を読んでいたらしいシーダの傍に、マルスは駆け寄った。
すぐに包帯の巻かれた腕に気づく。
「シーダ、何があったんだ? どうして君が怪我を……」
「え? ああ……」
シーダは包帯の巻かれた部分に触れて、困ったように微笑んだ。
「レナさんね……もう、マルス様には黙っていてって言ったのに……」
「シーダ?」
「違うんです。これは敵にやられたとかではなくて、その……ちょっと失敗してしまって……」
シーダは恥ずかしそうに言いながら、開いていた本を閉じた。
「レナさんのお手伝いをしていたんですけど、慣れない事をしていたから周りに注意を払うのをすっかり忘れて、傍に積んでいた木箱をひっくり返してしまったんです。それで、避けそこなって……」
怪我は本当に大したことはなくて、包帯も大袈裟なんですよ? と、シーダは恥ずかしさで頬を赤くして包帯の巻かれた腕を撫でる。
シーダの笑顔に、マルスはホッと安堵の息をついた。
「忙しいのに、心配をかけてしまってごめんなさい。少しでもマルス様の力になりたくてレナさんのお手伝いをしていたのに、逆に迷惑を掛けてしまって……」
「そんな事は気にしなくていい、シーダ」
マルスはシーダの手を取った。
「迷惑なんかじゃないから」
「マルス様……」
「シーダに何もなくて良かった」
両手で白い手を包み込み、心の底から良かったと呟く。座っているシーダの手を取るマルスは自然と、片膝をついて跪く形になっていた。
「ジュリアンからの報告を聞いてどんなに後悔したか……」
シーダの手を握る力が強くなる。
「いつでも私の目の届くところにいてほしい。でもそうなると、シーダを戦場に出す事になってしまう――」
マルスは見上げた。シーダの澄んだ瞳に自分の姿がはっきりと映っていた。
「我ままだけど、それも嫌なんだ……」
どうしたらいいんだろうね、マルスはそう言って微笑んだ。
「でも……」
シーダは呟き、マルスを見つめ返す。
「でもそれなら私も、いつでもマルス様のお傍にいたいです。近くで、マルス様をお守りできるように」
「私がシーダを守るんだよ」
「いいえ、私がマルス様を守ります!」
「……」
「……」
しばらく見つめあい、ふっと互いに笑った。
天幕の外の喧騒が二人の耳を過ぎていく。レナとカインの声も微かに聞こえていた。
「じゃあやっぱり、戦場でもどこでも、傍にいてもらったほうがお互いにいいのかな」
マルスはそう言いながら、シーダの手を握ったまま立ち上がった。シーダも合わせて立ち上がる。
「それが一番いいと思います」
「シーダを後方に一人残したら、また木箱を崩して怪我をするかもしれないしね」
「ま、マルス様!! それは言わないで下さい! もう!」
「ははははっ!」
口を尖らせ怒ったようにマルスを見上げてみるが、もちろん効果はない。マルスは笑いながら、可愛い顔で怒るシーダの片手を取り、天幕の出入り口へと歩き出す。
「マルス様?」
「レナにお礼を言てから、ジェイガンたちの所へ行こう。いつでも、私の傍にいてくれるんだろう?」
「!!」
シーダの天馬も迎えにいかないといけないな。そう言ってマルスは笑う。
マルスの一言になんだか胸がいっぱいになって、シーダは目頭が熱くなった。それを隠すように僅かに顔を逸らすと、
「私が木箱を倒して怪我をした事、ジェイガンさんたちには秘密にしてくださいね……」
小さく呟いた。
「う〜ん……うん、努力してみるよ」
「……なんですか、今の間は」
お互いにしっかりと手を握り、二人は天幕を出る。
外は夕焼け色に包まれ、周囲の天幕も、木々も、すべてが赤く染まっていた。


END

七周年記念第一弾。暗黒竜のマルス×シーダでした。
2010/1/20 海乃アナゴ




海乃アナゴ様素敵サイトから、七周年記念期間限定フリー配布素敵FE小説を頂いて来ましたー。
マルス様とシーダは良いですねぇ。ザ王道。